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*イラン紀行から、2005.0407訪問

ペルシャ/沈黙の塔

 古代ペルシャの宗教・ゾロアスター教の葬法は「鳥葬」であった。
 鳥葬とは、遺体を山谷に放置して肉食の猛禽類に喰わせる葬法で、そのための施設を『沈黙の塔』と呼んでいる。
 この呼び名は西欧人によるもので、イランでは「ダフメ」あるいは「ダフマ」と呼ぶ。

 沈黙の塔は、不毛の山頂に設けられた高さ3〜4mの壁で囲まれた直径十数mの円形構造物で、天井はない。内部には、地上1〜2mほどの高さに真ん中にむかって緩やかに傾斜したスリバチ状の床がある。
 床には、同心円を描いて3列になった石の屍床(長方形の窪みらしい)があり、各列に24体の遺体を置くことができる。外側が男性用、真ん中が女性用、内側が子供用だという。
 同心円の真ん中に深い穴があり、鳥に食べられたあとの白骨が投げ込まれ、穴がいっぱいになると新しい塔を建てたという。

 
復元模型
 
内部の様子
(窪地は白骨を入れる穴か)

 ゾロアスター教の根本教典・アヴェスタの除魔書に、『死体は山の頂上に葬れ』とあることから、沈黙の塔はゾロアスター教初期の頃から存在していたらしいといわれ、今、イランでは首都テヘランの南方のコム、古都イスファハーン東方のヤズトなど数カ所に残っている。
 ヤズドには至近距離で2基残っているが、いま使用されている痕跡はなく(だいぶ前に禁止になったという)、観光用になっているらしい。

 
全 景(絵葉書転写)
 
近接して2基がみえる
 

 山頂にあって頂が凹んだ構造物は“天と地を結ぶヘソ石”とよばれ、宇宙の中心にあって、人はここから生まれ、死後この穴を通って冥界・あの世へ向かうという聖地である。
 塔の真ん中に骨を投入する穴をもつ沈黙の塔は、人工のヘソ石といえる。死者は、ヘソ石である沈黙の塔に葬られ、霊魂は鳥に運ばれてあの世へと再生していくが、塔に天井がない分、あの世と直結しているといえる。

 ゾロアスター教では、神聖な火・土・水・空気を死穢で犯すことを忌むため、火葬・土葬・水葬は忌むべきものとされていた。また、死は悪神アンラ・マンユが生に対して勝利したことで、死骸は極端に汚穢な状態にあるとされた。
 そのため、特別に訓練された屍司以外は誰も遺体にはさわれない。屍司は遺体を洗浄し経帷子を着せて大地を穢さないように石板の上に置く。
 その後、司祭が香を焚いて邪鬼を祓い祈祷を捧げる。この時点で、霊魂が遺体から離れ、遺体は物体となると考えられた。

 遺族が、遺体に触れることなく別れを告げると、屍司は金属製の担架に乗せて外に運び出し、石版上に移して沈黙の塔まで運んでいく。塔に着くと、その都度壁に穴を開けて遺体を運び込み、衣服を脱がせて屍床上に置き、あとはハゲタカなどの猛禽類がむさぼり食うに任せ、残された骨は中央の深い穴に投げ入れられたという。

 われわれの感覚からすると、遺体を鳥などに喰わせるとは野蛮な葬法のように見えるが、大地を屍穢で穢さないことを重視するゾロアスター教にあって、遺体を穢れがしみこまない石床に置いて大地と隔離し、霊魂の運び手とされる鳥に食させて冥界へ送ることは最も合理的な葬法だという。

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