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*イラン紀行から、2005.04.07訪問

ペルシャ/ペルセポリス/有翼円盤

 イランの古都・ペルセポリス遺跡の宮殿入り口や門柱・窓枠などの高所、特に王者像の上には必ずといっていいほど見られるものに【有翼円盤】(有翼円環)がある。全体のイメージは“翼を広げた鳥”である。

 大きく広げた翼の真ん中(鳥の胴体に当たる)に大きな“円環”が、その上(鳥の頭に当たる)には王冠らしきものをかぶった横向きの“人物像”が、左手に小型の円環を持ち右手を軽く挙げている。
 円環の下には鳥の尾羽根状のものが垂れ、先端が蕨手(ワラビテ)状になった鳥の脚と思われるものが斜め左右に伸びている。

ペルシャ−門柱上の有翼円盤
門柱上の有翼円盤

有翼円盤(資料転写)
ペルシャ−有翼円盤・模式図
有翼円盤・模式図(資料転写)

 ヘロドトスは
  「ペルシャ人は神の偶像や神殿・祭壇を建てるという風習を持たず、むしろ、そういうことをする者を愚かだとする」(歴史)
と記している。管見した限りで、ペルシャの遺跡で人の形をした神像や女神像を見ることはない。

 その中で唯一“神を象徴するもの”が有翼円盤である。左手に持つ円環は宇宙の支配権を象徴し、軽く揚げられた手は伝統的な祝福の仕草とされ、人物像は王あるいは王権の象徴だという。

 ちなみに後世のササーン朝になると有翼円盤そのものはなくなっていくが、“円環に細長い布片(リボン)をつけたもの”が王権の象徴とされる。有翼円盤をもって王および王権の象徴とする観念が、リボンを付けた円環へ継承されたことを示している。

 “鳥の羽根をつけた円盤(円環)”というイメージは古代エジプトが起源で、“鷹の羽根をつけた日輪”は天空神・ホルスの象徴だという。それがシリアからヒッタイトを経由してメソポタミアに伝播し、まずミタンニ(BC15世紀頃)で円筒印象の図像として現れ、次いでアッシリア(BC7世紀頃)・バビロニア(BC6世紀頃)へと受け継がれ、アッシリアでは日輪の代わりに神が円環から顔を出すようになったという。

 有翼円盤の円環は霊魂そのものであり、その魂が飛翔することを翼で表したのが元々の姿で、太陽とするのは次の段階、神そのものとされたのは最後の姿だという。
 アケメネス朝の有翼円盤は、アッシリアのそれの流れをくむものだが、ペルシャの宗教・ゾロアスター教では人間の守護霊・『フラワシ』を表すという。
 フラワシとは、物質世界が創造される以前から存在する霊的存在で、人の誕生後、常にその人と一緒に行動し、人が事の善悪・正邪を見極め正道を進むことを助け、死ぬまで一緒にいるとされる守護霊である。祖霊といってもいい。

 このフラワシを表すのが有翼円盤で、中央の円環は永遠の霊魂・フラワシを象徴し、円環から突き出している人間の頭部は、人間が善を選択する知性を持っていることを表す。
 両側に広がる翼は、霊魂が飛翔し向上するのを助けるものであり、三層になった尾羽根は善思・善語・善行という人間が護るべき行動規範を示し、両側に伸びる脚は悪との戦いを助ける蛇であるという。

 ここでの蛇は、キリスト教にいう邪悪なるものという捉え方はされていない。古代にあっての蛇は、その春になって現れ、また脱皮するという習性から穀霊とうけとられ、ひいては祖霊ともされていた。

◎有翼円盤のわが国への伝播
 わが国正月の“注連飾り”は有翼円盤の変形とする見方がある。注連飾りの真ん中のダイダイが円環すなわち祖霊の魂、左右の注連縄が鳥の翼、下にさがる藁シベやウラジロが鳥の尾羽根および脚が変形したものという(井本英一)
 ちなみに注連縄は、雄雌の蛇が絡み合った状態を表し、再生を表すという見方もある。
 注連飾りは正月に訪れる“歳神”(トシガミ)あるいは“祖霊”の象徴(あるいは「依り代」)とされるが、それは有翼円盤が守護霊フラワシを表すこととも通ずる観念である。 

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